「いぶき」第62号掲載のエッセーをお読みください。
先日、雑誌の対談で村山富市元総理と久しぶりにご一緒した。自民党が政権復帰を果たした自社さ政権の総理である。お互いに社会保障の仕事をしていたので、大先輩としてご厚誼を賜わったのも良き想い出である。
首班指名では、私は党議に反し、村山さんに1票を入れていない。朴訥な大好きなお人柄だったが、社会党委員長には一票は投じられなかった。
ある日の本会議に、久しぶりに民主党の野田佳彦前総理が演壇に立った。あまりに野次が騒々しいので、「総理までやった人の話は謙虚に聞くように」と議長として注意をした。
演説は相変らず上手だったが、恨み節が多く、総理の印綬を帯びた人だから、少し淋しく思ったのは私だけだろうか。
かつてのドイツ・プロシヤの鉄の宰相ビスマルクは、「政治は科学ではなく、術である」と喝破している。立派な理念や政策を持ちつつも、異なる意見をまとめ、権力を如何に維持するかの「術」の大切さを説いている。
村山、野田の二人の宰相が日本の為に果した功績は大きい。後世の評価は高いと思われる。
村山総理はガラパゴスのような旧社会党を現世につれ戻した。日米安保を容認し、現実政治を担当しうる姿によって、政権交代への途を拓いたのは特筆のものであった。
野田さんはブレない信念で、自民党が勇気を欠き、逃げていた社会保障財源としての消費税率再引上げの道筋をつけた。財政の為の大仕事だった。
その後の社会党は少数政党に転落し、昔の党本部を明け渡してしまった。民主党の現状はご存じのとおり。国政選挙で惨敗を重ね、党勢建直しが進まない。野田さんの前の二人の首相の責任もまた大きいのだが。
立派に事をなし、敬愛すべきお人柄の総理の出身政党の現状をみるにつけ、ビスマルクの言を改めて噛みしめている。
2013年9月2日