「いぶき」第62号掲載の料理のエッセーをお読みください。

ちょっと旨かったもの

コロッケ、ミンチやビーフのカツ、グラタン、スパゲッティナポリタン、そしてライスカレー。子供の頃のあこがれの美味を思い出すと、わくわくした気分になる。

洋食は日本独得のものだ。原型はヨーロッパにあるが、洋食は明治、大正、昭和と西洋に追いつこうとした祖先が工夫の末の日本の料理である。将に和魂洋才の美味である。

亡き母が作ってくれた洋食は、子供心にも手間がかかるなぁーと思った。じゃが芋をゆで、裏漉しにし、玉葱とミンチを炒め、混ぜ合せ、形を整え、パン粉をつけ、揚げるコロッケ。

小麦粉をバターで根気良く炒め、牛乳でなめらかに練りあげるホワイトソース。カレーやハヤシライスのベースを作りあげるのは大変だ。

最近はすべてがアンチョコになり、御飯までが電子レンジでチーンすれば、仲々のものができる。目先のことを簡単に、便利に処理する風潮は料理に限ったことではない。日常生活も、人間関係も。

便利で有難いが、本当にこれでいいのだろうか。市販既製品に少し手間を掛ける贅沢を楽しんでみてはどうでしょうか。

北海道の友人から、見事なアスパラガスが届く。6本の根元を切り、紐でくくり、根元を下に熱湯に5分。その後全体を3分間茹でる。柔かい先端の崩れを避ける工夫。冷蔵庫で充分冷やしておく。

マヨネーズは手間をかける自家製のものに勝るものはないが、今日は市販品で。卵黄だけを加え、香辛料を加えて、よく混ぜる。アスパラに添え、白ワイン。北の大地の風が吹く。

グラタンがなつかしくなると、市販のホワイトソースの缶詰を温めて、牛乳で練る。カレーの風味、トマトケチャップのナポリ風も自由自在。

葱の白いところ、下仁田葱なら最高だ。5センチに切り、トースターで焼く。マーガリンをぬった器に並べ、ホワイトソースをかけ、オーブンに。焼上りにパン粉とチーズをかけ、もう一度軽く焼く。

2013年9月2日

伊吹文明